フィオナ姫の上半身がぴったり収まっていた便器は、いまや大量の糞泥で溢れんばかりであった。少女の姿はすっかり覆い隠され、経緯を知らぬものが見れば、その中に可憐な姫君が囚われていることなど想像もつかない――いや、想像したくもないだろう。時折、むき出しの下半身が痛々しく痙攣して、フィオナ姫にいまだ意識があることを告げている。
「もう…、フィオナったら、ほんとに意地っ張りなのね。せっかくあなたにお腹いっぱい食べてほしくて、腸を活性化させる魔法でウンチの量を増やしてあげたのに。ぜんぜん減ってないじゃないの」
「………っ、…ぅ……っ…、」
 糞泥の底から、低くくぐもったうめき声が響く。フィオナ姫は懸命に耐えていた。拷問よりもなお恐ろしい状況で、必死に意識を繋ぎとめていたのだ。気を失えば口唇がゆるみ、汚らわしい邪糞が口腔を侵すのは明白だった。
「まぁ、いいわ。呼吸はチューブで確保してあるし、窒息の心配はないから。でも、いつまでそうやって強情を張っていられるかなぁ」
 ジュジュが意地の悪い嘲笑を浮かべた。無論、フィオナ姫には見えない。
「言っておくけど、あなたがウンチをどんどん食べて、減らして、自力でふたたび顔を出すまで、ずっとそのままだからね。何日でも、何十日でも、何年でも。きっとそのうち、身体の芯までウンチが染み込んで、血や肉の色まで茶色になって――なんだかもう肉便器というより、生きたウンチ人形ってところかしら? まぁ、フィオナがそんな調教をお望みだっていうのなら、私はべつに構わないけど♪」
 ジュジュの突き放した物言いにフィオナ姫が身じろぎしたのが、厚い糞泥を通してでもはっきりと見て取れた。ついに、少女の気高い決心が揺らいだのだ。耐えるも地獄、糞泥を口にするも地獄。逃げることも、死ぬことも、狂うこともできない。すべての道を閉ざされ、闇よりも深い絶望と無力感に、フィオナ姫の口唇が弱々しく緩んでゆく。
「……ぅ、く…ぅ、ぅあ、っは…ぁえぁ――
 ちょうど姫の頭部を覆う糞泥が、咀嚼の動きに合わせ、わずかではあるが確実に蠢きはじめた。ぞっとするような笑みを浮かべ、ジュジュが瞳をきらめかせる。
「そうそう、それでいいのよ、フィオナ。ようやく肉便器の務めを理解したようね、その調子で、どんどんお食べなさい。お代わりはいくらでも出してあげるから♪」
「っん、んぐ、んぅ…っぷ…、」
 ひとたび口にすれば、もはや嫌悪感を抱いている余裕など無かった。囚われの身となって以来、水一滴口にしていなかったフィオナ姫にとって、しっとりと濡れた糞肉はまぎれもなく、飢えと乾きを癒す慈雨であったのだ。ずっと糞臭を嗅ぎ続けた嗅覚がすでに麻痺していたせいもあるが、驚くほど躊躇なく糞肉を頬張り、一心不乱に飲み込んでゆく自分を、少女は遠く、他人事のように感じていた。