02.
 蒸し暑く、空気までもが粘る室内は、中央の床が蟻地獄のように窪んでいた。すり鉢の内部を満たすのは、時おり発酵ガスの泡を浮かべて濃厚な臭気を吐き出す、黄土色に濁った生暖かいスープである。
 その(あな)は「培養槽」と呼ばれていた。不気味な浴槽を満たすスープの正体は、「餌養母」と呼ばれる少女達の腸内でじっくりと熟成され、やがて糞便と共に練り出された、魔力と養分を豊富に宿す腐粥である。大量に沈殿したこの排泄物こそが、室内に充満する甘酸っぱく香ばしい芳香の正体に他ならなかった。
 糞尿に埋もれる妖界を生み出したのは、たった二人の少女である。どろどろと粘着く粥風呂に腰まで浸かり、粘液塗れの肌を絡め合わせている。どれだけの時間をそうして過ごしたのか、全身髪の毛爪の先までもが糞便の黄金色に染め上げられていた。
 だがそうして培養槽に全裸で戯れ、退廃的な光景の中にありながら、なお少女たちは妖精か天使かと見紛うばかりに可憐である。二人は浴槽の中身をたぷたぷと揺らし、独特のアロマ臭をまた周囲に放出しながら、大小便のスープを啜っては互いの唾液と混ぜ合わせ、口腔での交換を繰り返していた。
「むちゅっ…ぶちゅるっ…ぢゅぶぶぶっ…むはぁぁっ♡」
「はむっ、んっ…ごくっ、ごくっ♡」
 異界の饗宴に楓は満足そうな笑みを浮かべる。黄土色に染まった景色の中、彼女の裸体だけが白く光って、その美しさを際立たせていた。
「二人とも、食欲旺盛で何よりですわ」
 そう言って身体が汚れるのも構わず、培養槽の縁、軟らかな汚泥の床に腰を落とすと、三人の目線が同じ高さになった。
「楓お姉様…♡」
 やがて楓の姿を認めた二人は嬉し気に微笑んで培養槽から這い出して行く。その下半身は状況に輪をかけて異様だった。
 一人は妊婦のように下腹部を膨らませ、もう一人の股間には在るはずの無いもの――男性の生殖器が臍に向かってそり返っている。
「あぁ、ご覧下さい…お姉様に喜んで頂きたくて、千夏は頑張りました」
 そう言って小柄な方の少女は誇らしげに膨れた腹をさすって見せた。
「ここでの暮らしにはすっかり慣れたようね。水琴先輩のお陰ですわ」
「うぅん、千夏が来てくれて一番嬉しいのは私だよ」
 糞尿塗れの少女達に楓は頬を擦り寄せ、軽く口付けた。たちまちその白い肌が香ばしい茶色に染まって行く。
「テイスティング、ですよね、お姉様…」
「ええ、お願いできるかしら」
「楓、ちょっと時間を貰える? 千夏の便通を調整するから」
「構いませんわ。ここでゆっくり待たせて頂きます」